先日中級以上の方向けへの記事を書きましたが、今回は初級までの方にも言えることをお伝えしていこうと思います。
中級以上の記事に書いた内容と枠組みは大きく変わりません。
しかし、初級の曲の場合、曲の構成が複雑でなく、小さい子供でも自分で分析が可能です。
その方法も含めて書いていきます。
Sakiピアノ教室主宰、飯沢紗希
- 音楽一家に生まれ、3歳からピアノ講師である母親にピアノを教わる
- 桐朋学園大学卒業後、ピアノ教室開講
- 我の強い子どもで、母親と猛烈な親子バトルを経験
自身の経験から、ピアノ練習における親子バトル、子どもの練習に悩む方へ、相談窓口を設けています。
初級の方にも使える譜読みの方法
まず、どんな曲の場合でも順番は一緒です。
- 全体を見てみる
- 細かく見ていく
新しい曲をもらった時、いきなり弾きだしていませんか?
「どんな曲だろう!」
楽しみで今すぐ音にしてみたい気持ちをちょっとばかり我慢して、まずは全体を見てみましょう。
全体を見ていくには
「まだ習い始めて間もないし…」
「まだ文字すら読めないのに分析なんて…」
いえいえ、初級の楽譜を分析していくには間違い探しができたらある程度の分析が可能です。
わたしの教室では未就学の生徒でも「間違い探ししよ~」と言って楽譜をざっくり分析してもらいます。
ではどんなところを見ていけばよいのでしょうか?
- 楽譜はト音記号とヘ音記号でできている?(音部記号)
- この曲は何拍子?(拍子記号)
- 曲のはじめに♯♭ついてない?(調号)
- 2小節(4小節)ごとに分けてあげて、まったく同じところ、似ているところ、違うところは?
- 伴奏の形はどんな形?
- 繰り返し記号はないかな?
このようなことをざっくりとみていきます。
この段階ではまだ音に出しては弾きません。
楽譜を一つの絵のように見ていきましょう。
全体を見るというのは絵の全体を確認するのと一緒
「全体を見る」と難しいように感じるかもしれません。
しかし全体を見ないで曲を弾き始めるほうが明らかに難しいのです。
例えば…
一つの絵を見てみてください。
絵の全体が見れていたら、
- 女の子と男の子が楽しそうにしている
- 青い車がある
- 太陽と雲がある
- 飛行機が飛んでる
「全体的に楽しそうなだ」と分かると思います。
では例えばこれだとどうでしょうか?
これは男の子の目をアップしたものです。
この絵だけを見せられても「茶色いなにか」としかわからないですよね。
先ほどの全体の絵を知っていて「男の子の目だよ」と言われなければ理解ができないと思います。
「全体を見ない」というのはこれと同じことです。
ずーっと「茶色いなにか」がなにか分からないまま練習を進めていくのです。
曲というのはひとつの絵画。
大きな曲の場合は、パッと見渡すことのできない巨大なキャンバスに描かれているもの。
小さな曲の場合は、手に持てるくらいのキャンバスに描かれたもの。
まずは全体を見渡し、どこに何が描かれてあるのかの確認。
そして一つ一つのモチーフの確認に入ると思います。
曲を弾いていく作業も同じものなのです。
そして「男の子がどんな色の服を着ているのか…」のように、モチーフを細かく見ていくときにも全体像をイメージしてみていきます。
それが、フレーズを作る際に必要になってきます。
小説は文字で読み手に物語を想像させる。
絵画は色や視界から入る情報で見ている人に物語を想像させる。
では音楽は?ピアノは?
「音」で聴いている人に物語を想像させる。
この意識がとても大切です。
音部記号、拍子記号、調号を見落としていたら大きなミスに
まず、楽譜のはじめに
- 音部記号
- 拍子記号
- 調号
が必ず書かれています。
(ハ長調、イ短調の場合は調号はつきません)
はじめに書かれているっていうことはそれなしでは弾けないということです。
音部記号はピアノで使われるのは高音部記号(ト音記号)と低音部記号(ヘ音記号)です。
5線が2段、カッコでくくられているものを大譜表と言います。
この大譜表は基本的にト音記号とヘ音記号ですが、上下ともト音記号、もしくは上下ともヘ音記号ということもあります。
それを見落としていると、まったく曲になりません。
拍子記号も、どんな形で曲が進むのかが分かります。
確かに音符の長ささえ分かっていれば弾けるかもしれませんが、4分の4拍子の4分音符と、2分の2拍子の4分音符はどちらも同じ「1小節に4分音符は4つ入る」ですがとらえ方が違うのです。
初級のころから拍子記号も確認する癖をつけましょう。
調号も曲の雰囲気(色)を決めているものです。
調号を見落としていると、そもそも響きに違和感がうまれます。
長調(明るい調)か短調(暗い調)でも全然変わります。
全部で24の調が存在します。
調号で24個の表情が表現されるのです。
この3つの記号は見落とさずに必ずチェックする癖をつけましょう。
未就学の子でもできる超簡単な分析方法
では次にどんな形式(構造)で曲が作られているかを見る方法です。
今回は未就学の初級程度の曲を意識して書いていきますが、考え方はどのレベルの曲でも同じです。
この作業はまだ曲の作りが簡単で、短いときにクセづけておくのがおすすめです。
- まず、2~4小節に楽譜を区切っていきます。
- その小節と「まったく同じ」「似ている」ところを探していきます。
- 「まったく同じ」「似ている」ところにその小節と同じ目印をつけます。
- 「似ている」場合はどこが違うのか、違うところにしるしをつけていきましょう。
- 「まったく違う」ところもしるしをつけておきましょう。
- 「まったく違う」ところの中にも「まったく同じ」「似ている」ところがあれば同じようにしるしをつけていきます。
全体の分析はこんな感じになります。
8小節、16小節の、本当に短い曲で見ていくのをおすすめします。
では細かい部分の分析に入りましょう。
(見ていく順番はなく、自分で気が付いたところからとりかかります)
- 「似ている」ところの違うところは何が違いますか?右手はどんな形に変わった?左手は?
自分で気を付けるべきところをわかりやすいようにしるしをつけます。(例:最後が伸びるなら伸ばす記号、音が下がっているなら→を書く、など) - メロディーはどんな形?上がってる?下がってる?とんでる?
この分析が「表現」にもつながっていきます。 - 伴奏形の形はどんな形?1音ずつ書かれていても、そこがどんな和音でできているか一度弾いてみましょう。
初期の曲は主要三和音でできていることが多く、分かりやすいです。
※主要三和音とは…ハ長調の場合、ドミソ(Ⅰ)、ファラド(Ⅳ)、ソシレ(Ⅴ)が主要三和音です。
(例:ドソミソ→ドミソの和音、など) - 伴奏形が変わっているところにチェックを入れましょう。
(例:ドミソの和音だったのが、ソシレの和音に変わった!など)
変化の合ったところは前の和音からどうポジションが移動するか見ていきます。
(例:ドミソ→ファソになっている場合は、ソの音が共通している、など)
文章にするとややこしいですが「一緒」なところと「違う」ところを細かく見ていく作業になります。
「違う」ところはどこがどう違うのか?も考えましょう。
和音のポジションを考えるのも、実際弾いていくときに一つの目安が作れ、無駄に手を動かすことがなくなります。
それぞれの記号も見ておこう
音で弾き始める前に、それぞれの記号もチェックしておきます。
そうすることで、曲の作りを想像して弾くことができます。
譜読みが「音読み」で終わらないようにするには、音を弾く前にしっかり楽譜を見ることが大切です。
そうすることで、「音がかかれているだけじゃない」ことに気づけます。
いきなり音に出して弾き始めてしまうと、音に必死でそれどころではありません。
やっと弾いていくよ!音を出して弾く時の注意点。
ここまでの作業をしてやっと音に出してみることをおすすめします。
といっても、ここまでの作業は5分あればできてしまいます。
なれてしまえばパッと見て全体像を把握できるようになっていくので、めんどくさがらずにやってみてくださいね。
ではやっと音に出して譜読みをはじめていきます。
初級程度の方を想像して書いていますので、まだいきなり両手で弾き始めることはしないほうが良いと思います。
かといって、片手で最後まで弾くのもあまりおすすめしません。
(8小節、16小節程度であれば、良いかと思います)
4小節ずつ、片手で弾いてみる。
そして問題なく弾けたらそこを両手で合わせてみる。
という譜読みの方法をしてみましょう。
結局は両手の響きが合わさって一つの曲が作られています。
なので、片手ずつ最後まで弾いたところで、横のライン(メロディー)は把握できるのですが、縦の響き(和声)がずっと把握できないままなのです。
これでは中々両手で弾くのに苦労します。
4小節ずつ練習して、それぞれの横のラインが把握できたら、耳と頭が鮮明に覚えているうちに縦の響きを確認していきましょう。
そしてさきほど簡単に分析した「似ているところ」があればそこも一緒に見ていくと譜読みが楽になります。
「似ているところ」というのは「まったく同じ」ではなく、何かが変わっているところでしたよね。
その変化を響きで確かめていきます。
そして同時に表現も考えてみましょう。
「まったく違うところ」は同じように練習をしてみてくださいね。
初級程度の曲では、「まったく違うところ」も2小節、4小節ごとに「音の形は一緒だけど高さが違う」ということも多くあります。
そういうところに気づけるようになると、楽譜を見るのが楽になります。
細かなフレーズの形を把握していく
2小節、4小節ごと確認していく作業は「フレーズの形の確認」にもつながります。
全体を見るときにもお話ししましたが形を確認することはとても重要です。
□という形が分かっていたら、1本ずつ線を描いたとしても□を目指して描きますよね。
なにもイメージせずにただ1本ずつ線を描いていっても□にはなりません。
「どんなフレーズを作っているのか」というイメージがないと、うまく組み立てていけないのです。
そのためには、そのフレーズがどんな形であるか、ていねいに確認していく作業が必要です。
形がちぐはぐなパズルのピースを集めても、うまくはまらないし、きれいな絵に完成しないですよね。
フレーズを作っていくという作業は、パズルのピースの形を確認して、うまくはまるように整えていく作業なのです。
ただ音を並べていくだけではなく、音の形を見ていくことで、後々長く複雑な曲を組み立てていくことができます。
音に出すときの手順
手順をまとめてみます。
- 2小節、4小節ずつ片手で横のラインを確認していく。
- 片手が問題なく弾けるようになったら縦の響きを確認するために両手で弾いてみる。
- その時にフレーズの形も確認する。一体どんなパズルのピースなのか?
イメージして組み立てていく。 - それができたら一つ大きなフレーズ(ここでは楽節)へ。
2小節ずつの場合は4小節の形の確認。4小節の場合は8小節の形の確認。
ここまで出来たら、はじめから最後まで両手で弾くことは可能な状態になっているはずです。
注意点(指づかいについて)
譜読みの際に指づかいを確認すると思います。
その時に「指づかい→音」の順番で見てしまっていると後々大変になってきます。
指づかいはその音を弾きやすくする(きれいに弾けるようにする)ために、書かれています。
初級の曲の場合は、基本的な和音の指づかいの学習と、ポジション移動が、指づかいを決める大きな理由になっています。
中級以上のレベルになると、手の形によって書かれている指づかい以外を提案することもありますが、指づかいを決めるのも経験値が必要なのです。
基本的には書いてある指づかいに従いましょう。
指づかいは文字の書き順のようなものです。
まず文字の形があり、その成り立ちもふくめ、きれいに書くために書き順が決まっていますよね。
なので、まずは音を見ること。
その直後に指づかいの確認をクセづけていきましょう。
譜読み前の音源確認についての注意点
譜読みの前に「どんな曲だろう?」と音源を確認するのは悪いことではありません。
しかし、音源を聴いてしまうと、
- 仕上がりのテンポを知ってしまうため「こんなの無理」との先入観をもってしまう
- はじめからとんでもないテンポで弾こうとしてしまう
- レベルにふさわしくない表現を目指してしまう
などなど、良くないこともあります。
本人の性格にもよりますが、音源がYouTubeなどで気軽に聴けるようになったからこそ、気にしておかなければいけません。
まずは「自分でどんな曲か確認する」ということをしてから、音源を聴くように心がけてくださいね。
譜読みは「音読み」ではなく、どんな絵を組み立てているのか?
ぜひやってみていただきたいのが全体像の確認作業。
この作業、本当に必要です。
冒頭でもお話ししたように
- 小説は文字で読み手に物語を想像させる。
- 絵画は色や視界から入る情報で見ている人に物語を想像させる。
- ピアノ(音楽)は音符と数少ない音楽記号で物語を読み取り、「音」で聴いている人に物語を想像させる。
では、まず「どんな物語か?」を知る必要があります。
全体像が把握できていないと、音に必死になり、いま弾いているその音にしか注意が向かないのです。
それは
これしか見れていないのと一緒です。
視界がとても狭い状態です。
曲の全体を見て、一つ一つを丁寧に組み立てていく感覚で楽譜が見れるようになると、もっと色んな気付きに出会えると思います。
誰かの気づきになれば、幸いです。
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